コシャマイン記  鶴田知也

 昭和十一年、恰も二二六事件の年に、日本人とアイヌとの戦いを描くこの小説が受賞した。作中に 「国土(モシリ)の何にでも欲深い目を輝かせる日本人(シャモ)」という言葉があるが、これは満州に王道楽土を夢見る日本人の目であり、同時に太平洋に侵略するロシアと欧米列強の目でもある。委員の選評を読む限りではそういうパースペクティブはなく、あくまでも昔の話として享受するにとどまり、自らがシャモの一員として断罪されているという苦い認識はなかったかのようだ。プロレタリア文学としての社会批判を孕む小説が、叙事的な叙述に終始するという方法に寄ってその批判を深く埋没させ、ただその格調の高さという外見が、詮衡で満座の支持を受けた、ということらしい。

第3回
1936年前期
個人的評価 ☆☆

カイ
 この哀れな歴史のやうな物語は今どきに珍しい自然描写などもあり、何か、むくつけき抵抗しがたいものに抵抗してゐるあたり、文明と野蛮とのいみじい辛辣な批判がある(室生犀星)

ヤリ
 筋書のような感じもする(が、昔風の史話として面白い作)(瀧井孝作)