2012-05-01から1ヶ月間の記事一覧

夏の約束  藤野千夜

至極つまらない。「ヤオイ」そのもの。おそらくはヘテロな作者によって書かれた、ホモ小説。と思ったがよく考えれば作者は女性だった。いずれにしてもすっかり平俗な世界に取り込まれてしまっただけの同性愛の世界。文学も異質なものとして屹立することがか…

驟雨  吉行淳之介

「女好き」の渡辺淳一の小説が、「女嫌い」の吉行淳之介の小説と、どうして似通ってくるのだろう。吉行の根底には女性恐怖があるらしいが、「夕暮れまで」に至るまで、彼の小説は女性からの受容を求めることだけに終始してしまっているように思われる。世間…

きれぎれ  町田康

後年「告白」という傑作をものにする作家を良く拾い上げてくれた。芥川賞が取り逃がした、真正の作家性を有する作家は多いが、仮に町田を取り逃がしていたとすれば、それこそ同賞の権威は地に落ちていたかもしれない。 これは無用の長物としての文学、有用性…

悪い仲間・陰気な楽しみ  安岡章太郎

いよいよ上野千鶴子氏言うところの、日本版ミニマリスト「第三の新人」の登場。一読、なんだか生ぬるい小説のように思った。「陰気な愉しみ」も同様で、言葉の内圧が極微である。安岡にはなんとなく不良少年というイメージがあったが、こういうノンシャラン…

花腐し  松浦寿輝

ずっと松浦寿輝はすごい人だと思っていて、それは芥川賞受賞者で文学博士で詩人としてもH氏賞も受賞していると思っていたから。しかし最後のH氏賞は私のカン違いで、松浦は高見順賞、近年は萩原朔太郎賞を受けているが、詩の芥川賞と言われるH氏賞は取ってい…

或る「小倉日記」伝  松本清張

後年の作風を知る人は松本清張が直木賞ではなく芥川賞で出発していることを意外に思う。この両賞の入り繰りというのはたまにあるようで、純文学系とされる井伏鱒二や梅崎晴生は直木賞の方だし、逆に田辺聖子や宇能鴻一郎は芥川賞なのだ。この頃はまだ両賞の…

聖水  青来有一

一読なんらの感興なし。文章もただ平板とだけしか思えないもの。そしてそれは少し複雑なことを表現しようとするとたちまち文の結構が乱れるといった態のものだ。文庫本解説者の田中俊廣氏によると、「信仰や魂の救済は可能か」ということがテーマらしいが、…

喪神  五味康祐

なぜか芥川賞に紛れ込んできた剣豪小説。宇野浩二評に言うが如く「浮かび上がるには運のようなものが必要」ということで、誰だかは「仕方がないから、目をつぶって」と言って授賞した由である。前回が該当作なしの場合、このようなこと(今回は松本清張との二…

熊の敷石  堀江敏幸

これは若いフランス文学者のただの身辺雑記に過ぎないように思われる。しかし、一種超然として、ユダヤ人問題やボスニアの話を遠景のように語るこの筆致を好む人はいるかもしれない。「熊の敷石」なるタイトルの由来が小説の終わりのほうでようやく知らされ…

広場の孤独  堀田善衛

朝鮮戦争勃発後の、なお破壊的戦争の拡大が予見された混迷の時代の中で、良心的知識人の存命の道を「小説」を書くことに求めて行く、その経緯を書いた小説。印象的な作中人物であるティルヴィッツ男爵という亡命貴族(国際ゴロ)のしたたかな生存術に較べると…

中陰の花  玄侑宗久

「現役」の僧侶であるから、当然死がテーマとなるが、さしたる感興を覚えなかった。僧侶で作家と言えば今東光であるが、彼は瀬戸内寂聴同様、小説を書くようになってから出家したもので、長男として実家の寺僧職を継いでから小説を書き出した本作家とは若干…

春の草  石川利光

内田樹教授によると、批評家というものが寄生していない時代小説は興隆し、小説の詰まらなさを言い立てる批評家がいる純文学はそのためにやせ細り衰退しているという。ささやかな本ブログにおいても十分自戒すべきところである。とはいえ時代小説には純文学…

猛スピードで母は  長嶋有

津村記久子、伊藤たかみ、大道珠貴、吉田修一等の、私が密かに「人生ボチボチ派」と命名した人達の小説を読まされる中で、こういうつまらない小説の背景にある文学「理論」を多少勉強してみた。なぜこんなつまらない小説が書けるのか? それは何か文学的方法…

壁  安部公房

カフカの最初の日本語訳が出版されたのが「審判」で、昭和15年(1940年)、白水社刊、本野亨一訳ということらしい。6、7冊しか売れなかったらしいその本の1冊を安部公房が買っていた由である。選評では詮衡委員の誰一人カフカに言及していない。わずかに…

パーク・ライフ  吉田修一

「隅々まで小説の旨味が詰まっている」という三浦哲郎氏の評語を読んで首をひねってしまった。全く面白くもなんともない、という感想しか持ち得なかった私には、そもそも小説の旨味というものが味わえないのだろうか。三浦氏の言う小説の旨味というものを見…

異邦人  辻亮一

小説の舞台となる「木枯国」ってどこの国のことなのか、しばらく状況が良くわからないまま読む。敗戦後、敵地の収容所に留めおかれた捕虜たちの話なので、木枯国とは中国の、満州のことなのだろうと、漸く見当がついたが、それでも架空の国を想定してのフィ…