2012-08-01から1ヶ月間の記事一覧
丸谷才一は一種の粋人なのだろうと思うが、その粋人の手になっても題材が老人の性ということであれば、作品が品下ってしまうのは避けられない。昔芸能プロデューサーだかが、自分の「征服」した女の肉体的特徴を克明に手帳につけていた、という記事を読んだ…
その文章にも話の内容にも特に感興湧かず。これは私小説か。だとしたら、どうあれ身辺雑記にとどまるし、私小説ではないとすれば、どのような方法意識のもとで書かれた小説なのか、良く分らない。この小説における失語症とその回復の意味も良く分らない。私…
現実とぴったり何の過不足もなく重なり合っているような言葉で書かれた小説。不足するところがないのはいいが、余るものもないというのは物足りない。無名の人に焦点を当てるものとして鴎外の史伝の系列に繋がるものか。三島由紀夫は「鴎外まがいの文体」と…
畳の原材料の調達という特殊な題材をどのように取材したのかと考えたが、経歴を見てみたらやはり著者の実体験であるらしかった。日本での藺草の生産量が落ちていること、藺草を台湾、中国から買い付けていること、これらは少し調べれば分る。しかし「藺草の…
沖縄を舞台に、堂々、旧日本軍人(本土人)、アメリカ軍属、中国の弁護士、沖縄のジャーナリストが打打発止やりあう国際小説。この構成的な小説に対して「私小説」派の評者が文句をつけることが予想されたが、アンチ私小説派の私にしても、後章の「二人称」は…
欠格的人間である家族に拘束された女性奈津子の再生の物語。しかしあまりに低格過ぎる再生の物語だ。物語の背後に「父」の不在がある。「父」(奈津子の祖父)の記憶を持っている母と、「父」がすでに不在の奈津子と、「父」の堕落した姿である弟と。しかし「…
「受胎告知小説」としての「妊娠小説」が男流文学だとすると、このように妊娠そのものの経過を扱うものは女流文学としての本家「妊娠小説」である。しかし妊娠という生理的変化で女性が不機嫌になるということには、一定の実存的意味以外の社会的意味という…
「まだ見ぬ書き手へ」を面白く読んでいた私は、当時受賞最年少記録を更新(清水基吉26歳5ヶ月→石原慎太郎23歳3ヶ月→丸山23歳0ヶ月→綿矢りさ19歳11ヶ月)したこの作者の受賞作を構えて読んだ。構えて読んだせいか、結末のあっけなさに拍子抜けしてしまった。な…
睡眠と覚醒をめぐる哲学小説のようなもの。しかし哲学小説に不可欠だと思われる、世界の謎の根源に迫りたいという希求はハナから存在しない。あるのは、ある小世界を逍遥し、その間の心の揺らぎを書きつけるだけの自足である。現代文明の衰弱を描いた、と文…
十五歳のときに母を失くした経験を三十三歳の時に書く。その年齢でなければ獲得できない、静かで重厚な文章で。私小説の体裁を持つこの小説は自ずから脚色された現実をしか描出できない。母の死をめぐる経緯をすべて書いたものではない、ということは筆者も…
芥川賞受賞作を連日読んできて、これまでワーストと思ったのは絲山秋子。しかし喜べ絲山よ、ここに君以上の駄作があった。 これまで語り芸人の芸を連想させた文章がいくつかある。赤染晶子、田辺聖子、そしてこの荻野アンナ。さらに米谷ふみ子もおり、米谷氏…
登場人物、春子の夫の志郎とは吉村昭のことか。十姉妹や独楽鼠やランチュウを飼い、機嫌が悪いと万年筆をぶつけてくる、脱サラの売れない作家志望者。そうすると津村は近作の「紅梅」に至るまで吉村で始まり吉村で終った(終っていないが)ことになるか。津村…
、と日本人が無気力に慨嘆している隙に、中国共産党はどんどんと謀略を進めていた。あるいは、明日にしている間に。言葉などている間に。日本人のこのナイーヴさは何に由来しているだろうか。 六全協のあと「山村工作隊」が解体され、信じるものが揺らいだら…
あまりぱっとしないエッセイやぱっとしない小説を書いている、その後の著者のありようから推測していた通り、ダルな小説だった。主人公は地下鉄の運転に自足する青年だが、テツ男のように鉄道に熱い情熱を持っているわけではない。オタクというわけでもなく…
語り芸人のような才気を煌かせた文章。芥川賞と直木賞のカテゴリー・ミスのような気もするが、芥川賞がその孤塁から下りて、この才筆に授賞したのはまさしく快挙である、というべきか。第50回 1963年後期 個人的評価☆☆カイ 少なくも作者のなかに文学があるの…