ネコババのいる町で   瀧澤美恵子

 その文章にも話の内容にも特に感興湧かず。これは私小説か。だとしたら、どうあれ身辺雑記にとどまるし、私小説ではないとすれば、どのような方法意識のもとで書かれた小説なのか、良く分らない。この小説における失語症とその回復の意味も良く分らない。私にはまったく読解のとっかかりがつかめなかった。しまいには、―行間から、「サヨナラダケガ人生ダ」という、誰かの呟きがきこえてきて、それが読後の余韻になっている。小説というものはこうでなくてはいけない―という三浦哲郎のクダラナイとしか言いようがない選評に脱力してしまう始末。

第102回
1989年後期
個人的評価★

カイ  無意識そのもの、洞察力と構成力を自然に生かすことのできるふしぎな才能(日野啓三)
ヤリ 人生と人間のおもしろさを描き出したことは一応評価する。しかし、そのおもしろさが、この作品を超えて読者に働きかけるまでには到っていない(河野多恵子)

 瀧澤は朝日カルチャーセンターに行っていたらしい。丁度十年前、同センターの「駒田信二の小説教室」出身の重兼芳子が受賞している。瀧澤の時は講師は駒田信二ではなかったと思うが、受賞年齢が重兼52歳、瀧澤50才と何か近接したものを感じる。カルチャーセンターの男性講師とおばさん、もとい「熟年女性」との間に創造的なラポートが成立する、ということはありそうなことである。今回は書くことがあまりないので、駒田信二の文章心得10章でも書き写してお茶を濁しておこう。
1.りきむな。2.気をゆるすな。3.常套語を使うな。4.句読点に気を配れ。5.漢語は漢字で書け。6.漢字を使いすぎるな。7.辞書を引け。8.擬音や符号を乱用するな。9.言葉癖に気をつけよ。10.気取るな。
 ―勉強になります。カルチャーセンターでこれを聞けば多分受講料数千円かかるところ。