年の残り  丸谷才一

 丸谷才一は一種の粋人なのだろうと思うが、その粋人の手になっても題材が老人の性ということであれば、作品が品下ってしまうのは避けられない。昔芸能プロデューサーだかが、自分の「征服」した女の肉体的特徴を克明に手帳につけていた、という記事を読んだときの不快感を思いだした。その「征服」が自分の仕事がらみいわゆるパワセクハラであったのも不快感の原因だった。この作品の根底にも男性の征服欲が秘められているが、それにしては最後の章の高校生の日記にどういう意味があるのか良く分らない。

第59回
1968年前期
個人的評価★★

カイ  老人の心理がよく描けており、人間の生について、根源的な問いを発している(大岡昇平)
ヤリ  構図に念を入れた作品だが、これでもかこれでもかの画策に、むしろ直木賞的な才能を感じた。(永井龍男)

 作品ではなく作家の人物に触れる川端康成の選評が興味深い。「もとより賛成ではないが、好意を寄せておいてもよいと消極的に承認した。芥川賞としてはめずらしく、作者の人柄の話まで出ては、好意も増すわけだが、これはどうか」。この「好意」は文学賞の選考上重要な要素であると思われる。後に丸谷が谷崎賞の選考委員になったとき、中上健次を落し続けて谷崎賞を与えなかった。これなどは文学観の相異などというものでなく、中上に好意を持ち得なかっただけと考えた方が良い。その他、「俺の目が黒いうちはアイツにだけは賞はやらん」と決めている委員は大勢いることと思う。