背負い水  荻野アンナ

 芥川賞受賞作を連日読んできて、これまでワーストと思ったのは絲山秋子。しかし喜べ絲山よ、ここに君以上の駄作があった。
 これまで語り芸人の芸を連想させた文章がいくつかある。赤染晶子田辺聖子、そしてこの荻野アンナ。さらに米谷ふみ子もおり、米谷氏のは語り芸人というより弁士の能弁を想起させる文章であるが、なぜか全員女性である(庄司薫は多弁であるが、芸人の語りではない)。赤染はさておき、荻野と田辺では、同じ語り芸人でも芸の厚みというものがだいぶ違う。荻野のものはほとんどが定番ネタでいわゆる寒いギャグでしかない。愛恋に関する描写は読んでいて恥ずかしくなるほど紋切型。背負い水、という言葉を聞いたときに小説が書けると思った、という著者の話をどこかで読んだが、そのイメージを深く内在化しているわけでもなんでもなく、唐突につけたりで出てくるだけ。おまけにその水を「柄杓で汲みだしてしまった」とかなんとか。評家よ、何でこれが芥川賞か。それ以前に何でこれが文学か。かの浅田彰が唾棄しているらしいが当然至極だと思う。もっとも浅田氏が小説を褒めたというのもあまり聞かないけれど。

第105回
1991年前期
個人的評価★★★★★★

カイ  口の達者な作品である。作品がつらいところへさしかかると、機智がはじける。むしろ頓知頓才というべきか(古井由吉)
ヤリ  この作品での才気煥発には余分なところが多く、とくに地の文でのウィットは不発で、すこし抑えたほうがいいだろう(吉行淳之介)