夏の約束  藤野千夜

 至極つまらない。「ヤオイ」そのもの。おそらくはヘテロな作者によって書かれた、ホモ小説。と思ったがよく考えれば作者は女性だった。いずれにしてもすっかり平俗な世界に取り込まれてしまっただけの同性愛の世界。文学も異質なものとして屹立することがかなわなくなり、ひたすらこの世の水平化に貢献するだけなのか。その結果、もたらされるものはヤオイでしかないのに。ジュネ(あまり読んでないけど)の放つゲイの幻想性が文学とされていた時代は遠い。そもそも当方はノーマルなのでこの小説の世界にまったく興味がないが、女性の作者自身、この世界に深くコミットしているはずもなく、ゲイの人間がこれを読んだとしても、どこにも愛の悦楽を感じることはできないだろう。ここにあるのは「オカマ」という、ユルい気の抜けた擬似的自己愛の世界だけ。
ハードゲイとは違って「オカマ」とは一切の攻撃性を排した、日本国憲法的人間と言えるのではないか。

第122回
1999年後期
個人的評価 ★★★★

カイ  一見、無造作に楽々と書かれたような平明な文章が、よく読んでみると注意深く選んだ言葉でしっかり編まれていて味わい深い(三浦哲郎)
ヤリ  差別的視線の弛みは、世間の寛大化や理解度の深まりの結果などではない。何事も相対化してしまう、今日の風潮の結果に外ならない(河野多恵子)

追記/作者は「性同一性障害」である由。