喪神  五味康祐

 なぜか芥川賞に紛れ込んできた剣豪小説。宇野浩二評に言うが如く「浮かび上がるには運のようなものが必要」ということで、誰だかは「仕方がないから、目をつぶって」と言って授賞した由である。前回が該当作なしの場合、このようなこと(今回は松本清張との二人受賞)が起きがちなのか。しかし宇野が―松本ともども、所詮、芥川賞にも程とおく、直木賞にも程とおいものである―と言うに及んでは、少し弁護したくなる。 すなわち、剣豪と称された人々が到達した人間観照の極地は、文学が接近しうる人間の真実のもっとも精美なるものを示している―というふうに。それはまた内田樹思想の極微が彼の武道思想に集約されるということと同じ事情である、というふうに。しかしそれは例えば「バガボンド」でも十分に示しうるものである、ということは、そもそもの文学というものの限界がここに露呈している、とも言えるように思う。

第28回
1952年後期
個人的評価 ★

カイ  極めて独創的な造型力によって構成された作品で(中略)非凡の才能というべきである(坂口安吾)
ヤリ  読後にもっと精神的な印象が残ってほしいようにも思った(川端康成)