連絡員  倉光俊夫

 盧溝橋事件前後の新聞社連絡員の姿を描く。連絡員と言っても小使いの小僧のようなもので、前線の記者が書いた記事や写真を後方の支局まで運ぶ。そこから内地まで、記事は電報で行くが、写真は空輸しなければならない。主人公川島の、同僚山口へのいわれのない嫌悪、にもかかわらず山口の命を助けてしまう辺り、よくあることであるが、その辺でエスプリの利いた言葉が何かあってもよかった。この辺の理に適わない人間の好悪、「虫が好かない」という古来から使われてきた表現が示す人心の機微は、連絡員という職業の実態以上に興味深い。多田裕計の「長江デルタ」に対して、「昭和十六年でなければ全然問題にならんよ」と言った小島政二郎がまた「昭和十七年でなければ問題にもならんよ」と言うかと思ったが、今回はベタボメである。これなども理に適わぬ人間の好悪関係の一例か。

第16回
1942年 後期
個人的評価 ★

カイ 不明瞭なところがこの作品に人生そのもののような魅力を与えている不思議さ(小島政二郎)
ヤリ 創作小説としては力も弱く品位も低い(中略)素材の報告に止っている(瀧井孝作)