土の中の子供  中村文則

 本作では陰惨苛刻な虐待経験が語られるが、読者はどこかで安心しながら読んでいられる。その虐待を受けた当人が、若干の奇癖こそあれ、破壊的なダメージは受けていないことが初めのほうで知らされているからである。勢い、いったいどういう風に再生を語るつもりなのか、と気乗りしないままに関心は早くもそこに向かう。なかなかに書ける作家であると思うが、これも賞狙いの題材なのかという疑念が兆す。しかし内面から虐待の経験を語ったものとしては本作は秀作である。ここから想像力というものが飛翔すれば、それは「コインロッカー・ベイビーズ」を乗り越える作品となる可能性があるだろう。しかしそれがこの作品でないことは明らかである。

第133回
2005年 前期
個人的評価 ☆

カイ  (候補作の中で)小説を構築しようとしている作品はこれだけ(山田詠美)
ヤリ  深刻さを単になぞったもので、痛みも怖さもない(村上龍)span>