劉廣福(リュウカンフウ)  八木義徳

 外連味のない文章で、満州の工場(著者の勤務した満州理化学工業らしい)での日本人と中国人工人の交流を描く。底辺の中国人の卑小さ、狡猾さ、及び底知れぬ生命力というものが良く分る。

第19回
1944年 前期
個人的評価 ☆☆

カイ 不用な枝葉を惜しげもなく切断し、鮮明に幹の太さを浮き上らせたカットの手腕(横光利一)
ヤリ 短篇としての冴えと匂いとが稍劣る(瀧井孝作)

 昭和19年マリファナ沖海戦での大敗、サイパン島における日本軍全滅など太平洋戦争の敗色はすでに濃い。「正しく今日書かれなければならぬ作品を作者がこれ程熱を持って書いたのがまず珍重」と佐藤春夫が評したとき、彼にはまだ滅亡の予感はなかったのだろうか。