和紙  東野邊薫

 あまり世間に知られぬ職業の内実を伝える小説というものは概ね高く評価される。ものめずらしさということではないが、ここにも人生あり、という偏在性が感銘を呼ぶのだ。漉槽、漉簀、簀框、などというテクニカルターム、製紙の実際など、一定の経験か取材なしには把握し得ない、その労苦もまた評価の要素となる(作者の経歴を見ると、和紙作りは作者自らの経験である)。いずれにしろ外的な一定の「該博度」と内的な「抑制の度合い」が芥川賞水準というものか。

第18回
1943年 後期
個人的評価 ★

カイ  おっとりとした心構えで、よい人間を描いている。(片岡鐵兵)
ヤリ  小説作法というものに気をつかいすぎている(火野葦平)


 中山義秀の項で、「中山はかの高山樗牛が出た福島県の安積中学(現安積高校)の出身で、同校出身者の文学者はこのほか久米正雄、鈴木善太郎がいる。さらに中山の他に芥川賞を受賞した作家が東野邊薫と玄侑宗久と合わせて三人を数える。他は知らず、高校ベースで一校から三人というのは珍しいのではないだろうか」と書いたが、光文社新書に「名門高校人脈」(鈴木隆祐著)というものがあったので、すこし調べてみた。どうやら高校ベースでは、この三人というはやはり最多らしい。日比谷高校は著名な文人を多く輩出しているが、芥川賞となると古井由吉庄司薫のみだし、麻布高校でも吉行淳之介北杜夫の二名、開成高校松浦寿輝一名である。span>