蔭の棲みか   玄月

 在日朝鮮人や不法中国人の間の壮絶なリンチの描写がウリの小説。井上光晴「地の群れ」の如く、底辺の生活を強いられたときに発揮される無法の生存本能に人生の強度を求めるという、反復される小説の一ジャンルのようなもの。それが著者自身の現実の生の地平を描いたものであるとすれば、安易な論評は差し控えたいところだが、登場人物は単に粗雑なだけの人間としか思えず、その粗雑な人間を描くからといって文章まで粗雑である必要はない。

第122回
1999年後期
個人的評価★★

カイ  演説でも説明でもなく「描写」した点を私は推した(宮本輝)
ヤリ  残念なことにソバンの哀しみや憤りに胸を打たれるまでには至らなかった(三浦哲郎)