寂寥郊野  吉目木晴彦

 文章は堂々とし、物語の背景の事実の書き込みもしっかりしている。異国の地での孤立と老いから来る病の問題も、実に静かに叙述されている。しかし、これを文学というには何かが足りない。例えば戦争花嫁のドキュメントでも、アルツハイマー病の家族を抱えた人のドキュメントでも良い。そのような記録文書に少し内心の感慨をより多く盛り込んだもの、それが果たして文学となるのかどうか。文学の極北を笙野頼子ゴンブローヴィッチに置けば、その対極にあるような作品である。前者を私は必ずしも評価しないが、後者もまた私はよしとはしない。

第109回
1993年前期
個人的評価★

カイ 人物を人格において捉えて、みごとに成功している(河野多恵子) 
ヤリ 資料や取材を駆使する表現方法のせいか、人物たちと作者の間に、一抹の隙間風があるようで、疑問も残った(田久保英夫)