杢二の世界  笠原淳

 受賞作をずっと読み続けている自分には、既視感ばかり漂う世界だった。芥川賞用の傾向と対策小説かとも思う。今回、詮衡委員開高健は総評として「身辺雑記を出ない」と唾棄した。もう彼が言う気もなくなった「鮮烈の一言半句がどこにも見つからない」という言葉を、彼に代わってここで出しておこう。

第90回
1983年後期
個人的批評価★★

カイ  この作者は七、八年前に新潮新人賞をとった頃からみると、着実に成長しているようだ(安岡章太郎)
ヤリ  妙に不景気な小説で、しかも不景気の極、景気がよくなるという風情もない(丸谷才一)

受賞作の後、さしたる文業はない。しかし、定時制高校出身で、大学は中退でありながら、後日その除籍になった大学で文学部教授になってしまう、というのは、十分立志伝中の人物足りうる。