ベティさんの庭  山本道子

 外地妻ものは、その内容が郷愁だとか寂寥だけだとしたら、せいぜいがエッセイの題材程度のものだろう。短くエッセイで書けという制約を課せられたほうが、よりよく表現も伝達もできそうである。小説として(だらだらと)こんなに長くする必要性はあるか。東西文化論をぶつにはもう少し教養がいるし、主婦の私語りで、一介の主婦がそんな教養を有するのは不自然だし、それに文学的感興を与えるということはさらに難しい。文章は良いが、それでもこんなに長く読まされて何か得をしたというほどの文章でもない。最後の新しい女を秘書にして旅に出る夫を見送るという小説的仕掛けもあまり利いていない。

第68回
1972年後期
個人的評価★

カイ あれこれ眼を移さないので、作品が静かであった(永井龍男)
ヤリ 素直なだけに単調であり、読後の印象はこの枚数に較べて軽い読物という気がした(安岡章太郎)