モッキングバードのいる町   森禮子

 外地妻の寂寥もの、というほとんど芥川賞の一ジャンル(三匹の蟹/大庭みな子 、過越しの祭/米谷ふみ子、ベティさんの庭/山本道子、あれ、四作だけ ? )みたいな作品。結婚後の幻滅を外地で迎えるとその索漠はひとしおであり、そこから人間が、そして大抵の場合、女が、立ち上がる。それは何ほどかは文学的なものに思えるのだ。これはその外地妻ものの中で比較的思弁的な小説である。

第82回
1979年後期
個人的評価★

カイ  登場人物がすべて型通りすぎるのが欠点といへば欠点ですが、そこに却つて田舎町の退屈の厚味が感じられます(中村光夫)
ヤリ  この作者には、文体を持てとは言わないまでも、まずもう少し血の通った文章を書くことにつとめて貰いたい(安岡章太郎)

 何も西欧のものを崇め奉るわけではないが、「亡命」という境遇の中で人間が立ち上がって来た、ミラン・クンデラアゴタ・クリストフに比較すると、日本のこの外地妻ものはいかにも文学的射程が短い小説たちである。チェコハンガリーから脱することを強いられた彼等の寂寥は、日本人のそれに較べてもう少し深い、存在論的な寂寥なのだから、それも当然である