愚者の夜  青野聰

  外人の愛人(妻 ? )がいるくらいで自分を「非日本人」、「非生活人」だと思いなしていた男が、どうしようもなく、まるで汚濁を引き受けるように「日本」と「生活」を引き受けるという話。それだけのことが、恥ずかしく甘ったるく語られる。外国人とどんなに奇矯な性交をしようが、要は日本人的な身勝手な甘ったるい自己幻想に終始しているだけ。読み始めて三分でこの小説を放棄した。時は1979年、丁度ボーゲルが「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を書いた年である。このユダヤ人の中国研究家におだてられて、経済的に隆盛にある日本人はますます奢り高ぶるようになり、おそらくボーゲルの思惑通りに国際社会にスキを見せるようになる。この小説を読むと、驕り高ぶっていたのは何も経済人ばかりではない。そこから落ちこぼれていた路上生活者もまたそれなりに奢り高ぶっていたのだ、ということが良く分る。

第81回
1979年前期
個人的評価★★★★★

カイ  ここには外人の女が一個の肉体をそなえたかたちで文章にあらわされている(安岡章太郎) 
ヤリ  要するに、ヘンな外人を女房にした男の曲りくねったノロケ話(安岡章太郎)

 「外地妻もの」の男性版「外地夫」ものか。妻もの同様に文学的射程は極めて短い。しかし、青野は爾後盛んに文学活動をし、作家としては一応大成しているので、日本の経済的凋落があるいは彼を成熟させる追い風になったのかも知れない。