九月の空   高橋三千綱

 これって「武士道シックスティーン」の原作 ? 「剣道部活動報告書」か。
 銓衡の席上で、誰かが「青春を、青春の時点で書いている」と言っていたらしいが、文学にとっては至難のこの技を、この作が達成しているとは思えない。いくら青春とはいえ少女を描くに次のような表現はNGだろう。
 「男の匂いがする中に、場違いな蝶々が迷い込んできたよう」
 「瞳に星が見えた気がした」。等々。
 九月の空、というから秋晴れの空を想起したが、この小説に「空」って出てきたっけ ? ただ、 台風で雨が降ってくる場面はあったけれど。もったいないタイトルである。

第79回
1978年前期
個人的評価★★

カイ  ひねくりまわした疎外小説やしらけ小説が多い昨今、好感が持てる作品(遠藤周作)
ヤリ  後半に少女が登場すると急に筆がみだれて、興を削がれます(中村光夫)

 受賞の言葉で彼の母親が号泣して喜んだことを明かしていた。彼の父親は高野三郎という売れない作家だったのである。親が取れなかった賞を取った親孝行な作家は他に直木賞を取った井上荒野がいるが、彼女は「ひどい感じ 父・井上光晴」で虚飾に満ちた父の素顔を暴いているので、親孝行と言えるかどうか。後は中上紀谷崎賞を取れば、父・中上健次の受賞を妨害していた丸谷才一のハナを明かすことができたかも知れないが、その丸谷はすでに故人になってしまった。