豚の報い  又吉栄喜

 舞台が沖縄というだけで物語の霊が取りつき、5センチほども文章が立ち上がるが、それだけで保っているような小説だ。
 たまたま読んでいる三島―川端往復書簡で、三島の「宇野氏の作に出てくる事細かな「事実」の安易さと較べて、私は今更ながらワイルドが「架空の頽廃」で云つてゐるような「人工」の激烈さを恋しく思ひました」という言葉を読んだが、まさに今の読後感にぴったりである。虚構であるこの作の細部細部には安易な事実のようなものしかないのだ。豚がスナックを襲おうと、豚肉に中ってしまおうと、それは激烈な人工とはほど遠い。

第114回
1995年後期
個人的評価★

カイ  物語を展開する技術が卓抜で、多様な女性像にも魅力がある。(大江健三郎)
ヤリ  沖縄の風土や習俗が適切に取り入れられているという点には賛成しかねた(三浦哲郎)

 今回で、芥川賞受賞作全151作中78作まで終了。道半ばにしての感懐は、・・・はて、何の因果で、生あくびをかみ殺しながら芥川賞受賞作を連日連夜読む羽目になったのか、というもの。しかし、やりかけたことは最後までやらなければならないし。何様のつもり、というご批判は甘受した上で、これまでの採点結果は、
☆☆☆   傑作と認められる(2)
☆☆    才能が認められる(12)
☆      一読の価値あり(6)
★      特に読む必要なし(29)
★★     受賞した事が不可解(20)
★★★   候補になったことが不可解(7)
★★★★  文芸誌に掲載されたことが不可解(2)、となってマイナス評価★が75%と、圧倒的にプラス評価☆を上回っている。
ワーストの2作品は「沖で待つ」「夏の約束」。