犬婿入り  多和田葉子

 悪文の文学。美文というものが結局文化の囲い込み作用の結果で、それが他者の排除を生むのなら、その美文を排するべく言語を破壊する。また美文というものの結構が二項対立から生じているのであれば、その二項対立の呪縛から逃れる意味でも美文というものに就かない、ということらしいのだけれど。文学から歴史的残渣を消し去り、消去法で残ったものがここにあるのかも知れないが、それがこれだけ不毛なものなら、さっさと文学を捨てたほうが良いのではないか、というような感想も無意味か。捨てられたのは他ならぬこの私のほうなのだろう。民話の意味は全く不明。

第108回
1992年後期
個人的評価★★

カイ  当の女性の、社会に順応するというのではないがそこで自立できる、今日的な生き方を納得させる。(大江健三郎)
ヤリ  これほど「変身」し、無限定なのは、ほとんど恣意と変らないのではないか(田久保英夫)